偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
「冬哉!」
本村は凪紗の白いハンドバッグを持っており、それを見ると心臓が痛んだ。
これを持ってオフィスに会いに来ていた凪紗の顔を、こんなときに思い出している。
助手席に乗り込んだ本村に、俺はすぐ「なんで目を離したんだ」と苛立ちをぶつけた。
しかし本村の方は電話のときとは様子が変わり、ため息をつく余裕を見せた。
「大丈夫、安心しろ。スマホを確認してみた。どうやら凪紗さん、家族と連絡を取っていたみたいだぞ。ほら」
まるで凪紗が裏切ったかのように呆れた表情を浮かべる本村から、俺は素早くハンドバッグを受け取った。
スマホの相手は知っている。トーク画面を開くと、従兄弟の男と落ち合うやり取りが現れた。
──よかった。ちゃんと迎えが来て、車で戻ったんだな。