偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
「そんな残念そうな顔するなよ。ごめんな」
私は首を横に振った。
「冬哉さんは謝らないでください。私の家が過保護なのがおかしいんですから…」
実は、私には門限がある。
午後六時。それまでに家に戻らなければならないのだ。
金森家は創業者である祖父の権力がとてつもなく強く、おじい様の言うことはなによりも優先される。父も母も成人した娘に門限など時代錯誤だと認識してはいるものの、長である祖父には逆らえない。
おじい様は私の母方の祖父だから、婿の立場の父も強く言えない。
おじい様の子どもは、母と母の妹である叔母さんのふたり姉妹。
叔母さんちには娘が産まれず従兄弟たちは皆男子であるため、一族唯一の孫娘となった私に対するおじい様の溺愛は昔から尋常ではなかった。
おじい様に蝶よ花よと育てられた私たち金森家の女子には、門限のほかに〝結婚するまで清らかであること〟という信じがたい掟が課せられている。