偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

「そして、八雲くん。今度こそ、凪紗を大切にしてくれないと困る。だがそれには、まずはきみが大切にされなければならない」

どういう意味だろう。父の言葉に、冬哉さんと顔を見合せた。

「我々は今日から、きみを息子だと思って接するよ。凪紗と一緒になる覚悟があるなら当然、いずれ家族になるからね。だから、きみもなんでも相談しなさい。家族なんだから」

「……社長……」

「わかったかい。冬哉くん」

私は今日、冬哉さんの泣き崩れる顔を初めて見た。

ずっと知りたかった。なにを思い、なにを感じ、あなたがどんな気持ちでいるのか。

なにも知らなかった頃より何倍もうれしい。彼の本当の笑顔が見れて、初めて気持ちが通じ合った気がしている。

青葉が舞い、暖かな風が、抱き合う私たちを包んでいた──。

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