偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
そうこうしているうちに〝ピンポン〟と音がした。一週間ぶりの冬哉さんにはやく会いたくて、「はーい」と廊下をスリッパで駆けて玄関へ向かう。
すれ違った父に「走るんじゃない、凪紗」と背後から注意されたが、今の私は聞く耳持たず自然と湧いてくる満面の笑みでドアを開けると──。
「いらっしゃいま……せ……」
立っていたのは冬哉さんではなかった。
「凪紗。元気にしておったか」
「おじい様!?」
厳格な顔つきのおじい様。普段から着物を着ていて、鼻の下の白いひげはきっちりと整えられている。
しかしおじい様の表情はいつも通り私を見るとヘニャンと緩んだ。
「かわいいのぅ、凪紗」
「お、おじい様、今日はどうされたんですか……?」
おじい様は私たちを本邸へ呼びつけることは多いが、こちらへ出向くことは稀だった。
いったいなんの用事だろう。今はちょっと困るっていうか、これから冬哉さんが来るのに、タイミングが悪い。