偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

「降りて。静かにね」

冬哉さんはすぐにシートベルトを外し、人差し指を唇にあてて言葉通り「シッ」というジェスチャーをする。
こちらはまだ動くことはなかった。

私でもさすがに知っている。ここは、ラブホテルという場所。
〝そういうこと〟をするところだ。

戸惑いでまた「どうしてこんなところに」とつぶやきそうになったが、静かにと忠告されたことを思い出し、口をつぐむ。

彼にシートベルトを外され、手際よく回り込んで助手席のドアが開かれると、私の肩を抱いて扉の中まで支えてくれた。

狭い階段。それを上がりきると、ピカピカの大理石の床が現れ、ふんわりとしたスリッパがふたつ並べられている。新世界に足を踏み入れる気持ちで、それを履いた。

「そこに座って」

広い部屋の中には、キングサイズのベッドに、本革のソファとガラステーブルが置かれ、落ち着いた高級ホテルのような内装。

言われた通りに、ソファの端っこに緊張気味に腰を下ろした。
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