偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
冬哉さんは、ジャケットを脱いで、私の座るソファの背にかけた。私は、背後に感じる気配にゴクリと喉を鳴らす。
「さて、と」
ボスン、と音を立てて、私のすぐ隣に冬哉さんも座る。
なにが始まるんだろう。私の家族に別れを宣言してすぐの、ラブホテル。別のタイミングだったら期待でいっぱいになったかもしれないが、今は幸せな予感とは言い難い。
不安でたまらない……。
目をギュッと瞑ったとき、「フッ」と軽い笑い声がした。
目を開ける。
いつもの優しい笑顔の冬哉さんが、そこにいた。
「……え?」
「ごめんな、凪紗。別れ話をしてくるなんて言ったから、驚いただろ」
膝で震えていた手に彼の大きな手が重ねられ、不安を溶かすように力が込められていく。
「こうでもしないと、ふたりきりにさせてもらえそうになかったから」