偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
つまずいたまま立ち上がれないおじい様の代わりに、父が一歩前へ出た。
「……八雲くん」
動揺を隠せない父の声に、冬哉さんは瞬きをして応じる。彼はおじい様と話すときよりも、父が相手だと少しだけ鋭さを緩和させた表情になる。
「『はなごころ』の商標権を使ってきみがなにをしたいのか、我々にはわからない。……しかし、うちの大事な娘を、凪紗を巻き込んで……これでは、こちらも警察沙汰にせざるを得ないよ……」
「わからないようですね、社長。先ほど説明した通りですよ」
支えられて立っているのがやっとだった私を、冬哉さんが再度、腰を引き付けて抱き寄せる。
私の体は、力なくしなだれた。
「すべて凪紗の同意を得ています。俺に父親になる意志がある以上、外野はそちら。べつに無理強いするつもりはありません。凪紗と腹の子どもが、俺のものになるだけです。しかしこちらの条件を聞き入れるなら、本来はなんの権利もないはずのあなた方の意見を汲んでもいい、そう言っているんですよ」