偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
しかし、次の赤信号で停車すると、彼は視線をこちらへ向け、簡単に口を開いた。
「スマホ貸して」
「えっ!? は、はい!」
手を出され、私はハンドバッグのポケットに入れていたスマホをそこへ置く。
彼はそれを、まるで自分のもののように慣れた手つきでタップする。
驚いたのが、私が明かした覚えのない、最初の画面のパスワードである冬哉さんの誕生日をなんの迷いもなく入力し、解除したことだ。
「……と、冬哉さん、あの」
「ああ、やっぱり。居場所を特定するアプリが入っている。本体の設定も、他端末へ位置情報を知らせるようになっている」
「へ?」
「悪いが、消すよ」
冬哉さんは画面をいじる親指をもう一本増やし、スイスイ滑らせ、なにやら設定を変えている。
すぐに目当ての操作を終えたらしく画面を暗くすると、スマホは私には戻されずに彼の胸ポケットへ飲み込まれた。
あまりに自然な動作だったため、「返して」とは言えなかった。私の持ち物は、すべて彼のもののようだ。