政略結婚のはずが、極上旦那様に溺愛されています
 あと少しで唇が触れてしまう距離まで詰められ、低い声ではっきりと宣言する。ぴたりと秋瀬くんが動きを止め、苦笑してから私をぎゅうっと抱き締めた。

「あとでしたいから、我慢しておくよ」

 私の首筋に顔を埋め、秋瀬くんがちゅっと軽くキスをする。そのまましがみつくように抱かれ、指を絡めて手を繋がれた。

 すりすりと甘えて顔を押し付けてくる秋瀬くんを放置し、スマホを構えている山岸さんを睨む。

「なにしてるんですか、山岸さん」

「素面に戻った秋瀬の弱点になるかなって」

「天才かよ!」

 酔った男性陣がバタバタと席を立って同じようにスマホを構える。ちょっとした撮影会のようになっているのに、秋瀬くんはまったく動かない。

「和泉ちゃーん、こっち向いてー」

「向きませんよ!」

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