政略結婚のはずが、極上旦那様に溺愛されています
 てっきりまたされるかと思っていただけに、期待を裏切られた物足りなさがすんと心に寒々しさを与えてくる。

 自分からねだれるはずもなく、エレベーターが一階で止まったのをぼんやりと見た。

「しろちゃん、なに食べたい? 奢ってやるよ」

「一万円くらいするランチ」

「百円のおにぎりを百個、デスクに積み上げるか。全部、具は梅な」

「それ、ただの嫌がらせだよね」

 秋瀬くんは先にエレベーターを降りると思いきや、私のためにドアを開けてくれていた。そういうさりげない気遣いにときめいたことを気付かれたくなくて、逃げるようにエレベーターを飛び出す。

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