政略結婚のはずが、極上旦那様に溺愛されています
 どうせだめだと言ってもあの手この手でわがままを押し通すに決まっているのだから、私が折れてあげた方がいいのかもしれない。求められてうれしくないと言ったら嘘になるのもある。

「秋瀬くんからは抱き締め返してこないでね」

「無理だと思う」

「無理でもだめ」

「えー」

 不満げな秋瀬くんは無視し、その背中に腕を回して抱き締める。

 秋瀬くんはあたたかくて大きくて、男の人を感じさせる匂いがする。広い胸に顔を埋めるとドキドキするし、ああ好きだなあと強く思わされた。

 今もやっぱり、予想していた通りに胸が騒ぐ。

「あのね、秋瀬くん」

「なーに」

「……手、大事にしてね」

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