政略結婚のはずが、極上旦那様に溺愛されています
「お願いだから見ないで……」

 アイスを持っているせいで、ちゃんと顔を覆えない。きっと真っ赤になっている顔を、この人にだけは見られたくないのに。

 意識しているなんて知られたくない。イチゴ味のキスを想像してしまったなんて、気づかれたくない。

 心臓がうるさいぐらい高鳴っていることも、まだ触れられた唇が少し熱いことも、秋瀬くんの顔を見られなくなっていることも。全部全部、この人にだけは。

「そんな顔されたら、俺も本気になるんだけど」

「あ……」

 両方の手首を掴まれ、ことんとアイスが床に落ちた。

 思いがけず強い力で顔の横に縫い留められ、隠したいすべてを晒される。

「や、やだ――」

< 80 / 342 >

この作品をシェア

pagetop