俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい
2.キスをされまして
「おぉ、そうかそうか。結婚するか。おめでとう。 あやめ、喜べ。
蒼泉くんはなぁ、世界で一番あやめのことを――」
「孝蔵(こうぞう)さん、それは秘密だと言ったはずです」
「あぁ、そうだったそうだった。すまんね。
あやめが嫁に行くなんて、嬉しくてね、つい」
父よ。そこは愛娘の嫁入りを惜しむところでしょ。
娘を嫁にはやらん!!と堰を切るどころか、二人で秘密なんか共有しちゃって。
なんなのよ、もう。
プロポーズを受けてしまってからというもの、あれやあれやと事が進み、数時間後の現在、私の実家にて結婚の挨拶中である。
と言っても、父と蒼泉は面識があったようで、とても義理の親子の雰囲気とは思えない。
数分前は、今夜は祝酒だー!とか言っていた父も、最早ただの飲み会状態。
そんなに娘が嫁いで嬉しいか。
ちょっとくらい寂しがってくれてもいいじゃないの。
「あやめ、粗相のないようね。 しっかりやるのよ」
母も同じで、嫌になったらいつでも帰ってきていいのよ、とは言ってくれない。
まぁ今に知ったこっちゃないから、別にいいんだけど。
唯一私に優しい言葉をかけてくれるのは、やっぱり祖母だ。
「あやめちゃんがお嫁に……そうかぃ。寂しくなるねぇ……」
「おばあちゃん………私、毎日会いに帰ってくるからね!」
「いんゃ。それはダメだい。ばんばぁは新婚夫婦の邪魔をするようなこたぁしたくない。 わしのことは気にせんでえぇ」
お、おばあちゃんまでそんなこと!
邪魔じゃないのに。私がおばあちゃんに会いたいだけなのに!
私が気にしたいのにぃぃ!
はぁ。父の放任主義は、おばあちゃんから受け継いだのね。
結局、親子は親子ってわけだ。
だけど祖母は、私たちの結婚が円満で恋愛的なものだと思っているのだろう。
なら、それはそれでいっか。
おばあちゃんが喜んでくれるなら本望だ。
そもそもそのために結婚を決めたんだから。
「ところでお義父さん、お義母さん。結婚後のあやめさんのお仕事についてですが…」
あぁ、そういえば、結婚後は彼の会社に就職できるんだっけ。
おとうさん、おかあさんなんて呼んじゃって。順応するの早すぎない?
「おぅ、好きにしてくれぃ。どこにでも連れてってやってください」
「えぇ。是非あやめに、世間を見せてやってくださいな」
信じられない。
私が会社で働きたいって言った時は猛反対だったくせに、どこにでも連れてけ、だなんて!
おまけに私が世間知らずとでも言いたげな!
「ありがとうございます。では早速、来週から私の会社に出勤してもらいます。
それと、引越しは今週中に済ませます」
「ええ。あやめを、よろしく頼みます」
私の肉親は三人揃って、蒼泉に頭を下げた。