俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい
「うっわぁ〜。なに、この豪華な部屋」
蒼泉の運転で彼のマンションまでやってきた。
コンシェルジュ付きのエントランスはすっかり暗くなった外に灯りを漏らし、ただのマンションの入口のはずが、夜景並に惚けてしまうレベルだった。
玄関は驚くほど広く、正面の扉の先はホテルのスイートルームか何かと間違えそうだ。
部屋は十二階と、階数としてはさほど高くないにも関わらず、リビングの大きなガラス窓から東京を一望できる。
大きなL字のソファに、アイランドキッチンとダイニングテーブル。
全てモダンで統一されている。
ここが蒼泉の部屋だということをすっかり忘れた私は、わくわくしながら家中を見て回った。
3LDKというなんと贅沢なこの部屋で生活できるなんて、この結婚は間違ってなかったのかもとまで思ってしまった。
「ねぇ、なんかイマイチ生活感を感じられないんだけど……ミニマリストなの?」
三つ目の部屋のドアノブに手をかけたところで、部屋全体のものの少なさに疑問を抱いた。
私はどちらかというと片付けが苦手なので、蒼泉がミニマリストなのは案外いいかもしれない。
「いや。俺も昨日越してきたから。手違いで荷物の大半は明日届くことになってる」
「えぇ!? まさか、私と結婚するから新しく部屋を…?」
「ん? まぁ、そうだけど。 男一人が長年住んだむさ苦しいとこに、嫁は迎えられないだろ」
そんなこと考えるんだ。
これは、私のために……ってことで受け取っていいのよね。
早く、以外にも律儀な一面を見て驚きつつ、三つ目の部屋を開けた。
斜め後ろに佇む蒼泉から、その部屋の中へと視線を移す。
キングサイズのベッドがひとつ、置いてあるだけの部屋だった。
大問題発生だ。
一条蒼泉。昨日言ってたじゃない!
『ベッドは用意してあるから持ってこなくていい』
だから私、ほんとにその通り布団のひとつ持ってこなかったんだけど。
今この家に、ベッドはここにあるキングサイズしか存在しない。
まさか私は床で寝ろと?
でもベッドを用意したって言ってたし、このキングサイズに一人で寝かせてくれるの?
前者なら人間性を疑うレベルだ。
「私は、ここで寝ていいの?」
「当たり前だ。ここは寝室だからな」
恐る恐る聞くと、返ってきた言葉にほっと息を吐き出す。
「じゃあ、蒼泉はどこで寝るつもり?」
「ここだ」
「……冗談、よね?」
「冗談? 何が」
私もここで寝てよくて、蒼泉もここで寝るの?
「まさか、一緒に寝るってこと!?」
「そんなに驚くことか? 俺たちは夫婦だ。当たり前だろう」
当たり前!?なわけないじゃないの!
私たちは確かに夫婦になる約束はしちゃったよ?
けどそこに、一般の男女の間にある〝恋愛〟っていうのは含まれてないじゃない?
だからね、私たちが同じベッドで寝るって、おかしいのよ。
私たちみたいなのは、ベッド別々万々歳。
そのつもりだったのよ、私は!
「………っっ! ど、どうしようどうしよう!」
今から通販で布団頼んでもすぐには届かないだろうし、床では寝たくない。
ソファならギリOK?同居人の許可取ればオッケーかな?