俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい
スーパー角谷の近くにある隠れ家的な喫茶店は、常連客がほとんどで、店内は常に静寂を保っている。
折り入って話がある時にはもってこいの場所だ。
「あやめちゃんが、け、け…けっ、こん!?」
「はい…」
注文したコーヒー片手に瞳を大きく見開く一絵さんに、私は頷いた。
昨日の出来事を洗いざらい話し終えている。
濃厚なキスを除いて、だ。
昨日のキスは、思い出すと怒りと羞恥が同時に沸き起こってきて、頭の中が大変なことになる。
「なので、その…申し訳ないんですけど、お見合いの話は無し…ってことで……」
「何言ってるの、当たり前よ!お見合いなんてどうでもいいわ! 今はそれどころじゃないわよ」
つい先日はあんなに楽しそうに張り切っていたのに、結婚の話をしたらあっさりどうでもいい…だなんて。
余程衝撃的なのだろう。
まぁ、何しろ電撃結婚もいいとこだ。無理もないか。
昨夜はあれから、一番風呂に入り、マンションに来る途中で寄ったコンビニのお弁当で夕食を済ませた。
ベッドの件について蒼泉は言った通り、ただ隣で眠っただけだ。
会話は一切無かった。
「相手が一条コーポレーションの社長って、あやめちゃん、何をしたのよ!」
「何もしてないですよ〜。ただ、白菜を棚に並べようとしてただけなんですけどねぇ」
「そうよね。あやめちゃんは真っ当に仕事をしてただけよね」
一絵さんはうんうんと頷き、コーヒーをひと口啜る。
今日は仕事中、出勤の一絵さんにこの話をしたくてたまらなかったのだ。
暇ができるとつい話し出しそうになって、堪えるのが大変だった。
「そっかぁ。結婚か。 とりあえず、おめでとうで、いいのかしら」
「ははっ。そうですね、ありがとうございます」
この結婚を誰かに祝われるのは不思議な気分だ。
初日から波乱で、先が思いやられるからなぁ。
「仕事、来週からもう一緒に出来ないのは寂しいなぁ」
「私もです……一絵さん、たまにでいいですから、これからもこうして会ってくださいね」
「ふふっ。もちろんよ。いつでも話、聞くわ」
にっこり笑う一絵さんの笑顔はやっぱり華やかで、頼もしい。
ざわざわしていた胸も、彼女といると落ち着いてくる。
話を聞いてもらえて本当に良かった。
「一絵さん。いつも、本当にありがとうございます」
そう微笑むと、一絵さんはこちらこそ、と朗らかに言った。
それからはコーヒーを嗜み、他愛のない話をたくさんした。
別れ際、「無理しないでね、いつでも頼るのよ」と言ってくれた時の一絵さんの笑顔ときたら、天使のようで。
いい先輩をもったなぁ、と改めてそう思った。