俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい
「では、僕はこの辺で。 お二人共、仲良くするように。喧嘩はダメですよ。 蒼泉、あやめさんをあまり虐めないこと」
お母さんのような物言いに、私は苦笑い、蒼泉はムスッとして無反応。
颯爽と帰っていく山倉さんの背を見送ると、蒼泉は私に向き直って言った。
「よし。邪魔は帰ったし、片付けるか。あやめ、手伝え」
「はぁ?それが人に頼む態度ですか。 山倉さんだって、蒼泉が寄越したんでしょう?ありがとうくらい言いなさいよ」
「うるさいな、礼くらい後でいくらでも言える」
普通その時々に言うでしょ、お礼っていうのは。
「いいから手伝ってくれ」
「はぁ。 私、夕飯作ろうと思ってたんだけど!」
ため息混じりに言うと、蒼泉はがばっとこちらを向いて叫んだ。
「夕飯を作ってくれるのか!?」
「えっ……ええ、まぁ、一応」
その勢いと迫力に一瞬たじろぎ、目が点になる。
そんなに驚くこと?
私が夕飯作るの、そんなに珍しく思うのかしら、失礼しちゃうわ。
「これでも一応、和食店の娘ですから、味は保証するけど? 小さい頃から、お料理はおばあちゃんに教えてもらってたのよ。 食べたくないなら無理にとは言わないわ」
「食べたくないなんて、そんなことあるか。是非、作ってくれ」
「そ…う?なら、作らせてもらうわ」
私の両肩をがしりと掴むと、蒼泉は瞳をきらきらさせて言った。
そんなに期待されると、若干プレッシャーなんだけど。
「片付けはいい。 お前は是非、夕飯作りを。 あぁ、だが、俺は片付けが苦手なんだ。夕飯作り、手伝えることがあったら言ってくれ。その後で、片付けも、手伝ってほしい」
な、なによ。そんなしおらしい顔しちゃって。
そんなに片付けが苦手なの?
確かに、最初に渡された名刺はしわくちゃだったけど。
「人に物を頼む時は、お願いします、でしょ」
「そ、そうか。 お、お願いします」
「はい。承りました」
素直なところを見てしまった。
あんなに態度のデカかった蒼泉が、私にお願いしますと頭を下げている。
面白い。確かに面倒臭い人だけど、こうして手懐けるのは悪くないかも。
私の中のS心が、チラチラ姿を見せ始めたようだった。