俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい
蒼泉は和食膳を、ペロリと平らげた。
今まで、自分が作った食事は家族にしか振舞ったことがなかったし、両親はその手のプロだから、〝美味しい〟の後に飛んでくるのはダメ出しの嵐。
こうしてただ美味い美味いと食べてもらったのは初めてだ。
さらに、食器を洗っていたら蒼泉が手伝う、なんて言い出すものだから、驚いてお皿を落として割るところだった。
今ある数少ないお皿が減るのは困る。
これから食器も揃えなきゃね。なんて会話をしながら食器洗いをする姿なんか、新婚夫婦さながらだったと思う。
「さて。夕飯も済んだし、このダンボールの山を片付けよう」
蒼泉がミニマリストかと思った時は、私は何もしなくても勝手に家が綺麗って最高、なんて思ったのに、まさか彼は片付けが大の苦手とは。
私も得意なほうじゃないんだけどなぁ。
まぁ、さすがに名刺は綺麗に保てるから、彼よりはマシだろう。
「俺はこもって仕事をするのが苦手なんだ。できれば、仕事関連のものはリビングに置きたいんだが、散らかってるのは嫌か?」
この男ってば、苦手なことばっかりじゃないの。
「実を言うと、私も片付けは得意じゃないの。だから多少散らかっていても気にしないわ。
けど、お客様が来た時に困るから、ひとまとめにしておいてすぐに退けられるようにしてくれると助かるかな」
「あぁ、なるほど。分かった」
片付けの苦手者が一緒に住んでいたら、いつかこの広い部屋はゴミ屋敷と化してしまう気がする。
それは避けなければ。
大企業のイケメン社長の自宅がゴミ屋敷だなんて、誰も知りたくはないだろう。
「それにしても、本当に多いわね。何が入ってるのよ。 これ、開けるね」
持ち主がこくりと頷いたのを確認し、ハサミでガムテープに切込みを入れる。
一体どんな大物が入っているのかと身構えたのもつかの間、中に入っていたのは薄っぺらい雑誌が四、五枚………
「えっ、これだけ!?」
「荷造りも苦手だ」
苦手なことしかないじゃないの!
今までどうやって一人で暮らしてきたのやら……
「前の家では週二、三日家政婦を雇ってて、今回の荷造りもお願いしようかと思ったんだが、いい機会だから断捨離しようと思って自分でやった。断捨離は出来たけど、この有様だ」
そういうこと。
断捨離は出来るのね。
「知らない人が出入りするのはお前が嫌がる可能性も考えて雇ってないが、あやめが望むならすぐに手配する。ハウスキーパーでもなんでも」
確かに、テリトリーを知らない人が出入りするのは気持ち良くないかも。
「……お気遣いありがとう。 とりあえずは、自分と…あとお掃除ロボットに頼みたい。せっかく魔法のカードをもらっちゃったし、憧れてたのよねー、あのちっさい丸いのが家中動き回ってるの。 買ってもいい?」
「あぁ。好きなものを買えばいい」
「あの……そんなこと言ってもらっちゃうと、本当に何でもかんでも買ってしまいそう……」
「お前が買いたいものを買えるよう、それだけの金は俺が稼ぐ」
有難いお言葉として受け取っていいのだろうか…
なんにせよ、さすがにお金の使い方は気をつけよう。 社長の嫁の金遣いが荒いことなんて、すぐ世間に知られちゃいそうだし……