俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい
3.看病効果は抜群でして
翌週月曜日、私は初めて身に纏うレディーススーツに感嘆のため息を漏らした。
「こ、これがスーツ! すっごい気が引き締まる!」
初出勤を控え、緊張するどころかワクワクが止まらない。
土曜、蒼泉に連れられて行ったお高いスーツの店でも、終始興奮が収まらなくて、彼に深いため息をつかれてしまった。
「おい、行くぞ」
「はーい!」
「お前、緊張とかしないのか」
「それより楽しみの方が強いんですー」
「お気楽なやつだな」
玄関先でイヤミを言われても、気にならない。
私の浮かれっぷりは、相当なものだ。
一条コーポレーションには、徒歩十分程で着く。
今日は初出勤なので、蒼泉も一緒だ。
スーツと併せて購入したロングコートも、十二月も半ばの朝七時にはあまり意味が無い。
吐く息は白く、外に出てからものの五分で手は冷えきっている。
仕方なく持っていたカバンを肩にかけ、コートのポケットに両手を突っ込む。
履きなれていない高めのヒールで転ばないよう足元に注意しながら歩くのは落ち着かないが、寒さを前にそんなことは言ってられない。
すると、ふわっと首周りが温かくなった。
何事かとそこに手をやると、見覚えのある紺色のマフラーが巻き付けられていた。
驚いて顔を上げ、蒼泉の方を見やる。
「これ……」
「寒いんだろ。 マフラーも買わなきゃな」
「あ、ありがとう…」
こんな寒い朝に、優しさが染みるよ……
「ポッケに手を突っ込んで歩くのは危ない。お前はドジだからな。 あと、キスマーク。隠さないと」
わ、私がいつドジをしたって言うのよ。
ていうか、キスマークはもうだいぶ薄くなってきたから、今朝ファンデーションできちんと隠したし!
「あ、ぁ、朝からからかわないで!」
「からかってない。本気だ」
変なことに本気にならないでよね、もう!
この土日、抱くとは言うだけで、実際は濃厚なキスだけ。その後はなんのアクションもなく同じベッドで眠り、朝を迎えて朝食を食べる。
そろそろ一緒に住み始めて一週間が経つが、あの広い家での生活にもだいぶ慣れてきたように思う。
本当に、順応が早いのは私も同じらしい。
私の興奮を宥められながら歩き続けること十分。
目的地の、一条コーポレーション本社に到着した。
「でっかーい!」
街中にどんと佇む本社ビルを前に、歓声を上げる。
「もっとお淑やかな反応をしろ。お前は秘書だぞ」
はいはい。秘書という名のお世話係でしょ。
「社長、大きい建物ですわね」
「気持ち悪い」
「自分がそうしろって言ったんでしょうが!」
出勤早々一悶着ありつつ、私たちはビルへと足を踏み入れた。