俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい
広々としたロビーには、出勤してきた人でごった返している。
そして誰もが、社長である蒼泉が姿を現した途端にキレイなお辞儀をするのだ。
「おはようございます、社長」
何度も繰り返される挨拶に、一回一回丁寧に応える蒼泉は、結構良い社長なのかもしれない。
なかには明らかに声色が黄色い女子社員もいたが、彼女らにも顔色ひとつ変えず淡々と挨拶を返すのみだ。
私は蒼泉にくっついていき、社員証をかざしてエレベーターに乗り込む。
この社員証は、昨日蒼泉にもらったものだ。
「ねぇ、あおい…じゃなくて、社長。 さっきの子達、絶対社長のこと好きだよね。もっと何かしてあげた方がいいんじゃない? 例えばほら、王子様スマイル振りまくとか」
「なんで俺が王子にならなきゃならないんだ」
「誰も王子になれとは言ってないでしょ。
王子様のように美しい〝スマイル〟を振りまくの」
「嫌だ」
頑固な社長様だ。
乗り込んだのは重役専用のエレベーターで、今乗っているのは私たちだけ。
こんな砕けた口調で話せるのは、こういう時だけよね。
エレベーターは最上階で止まった。
まず向かったのは、英語で社長室と書かれたテンプレートが掲げてある部屋。
その名の通り、蒼泉が仕事をする部屋らしい。
茶色で統一されたお堅い雰囲気で、まさに社長室って感じだ。
「ここがお前のデスク。 デスクは他に、同じフロアの秘書課にも作ってある」
中央にある社長のデスクから向かって右側。扉のすぐ横に備わった広々としたデスクを、私が使っていいらしい。
「挨拶は後でいい。まず、仕事を覚えてくれ」
「はい」
私的にはご挨拶を先に済ませたいところだけど、ボスである社長様がそうしろと言うなら仕方ない。
素直に従うことにする。
社長は淡々と、それでいて丁寧に抜かりなく私の業務を説明してくれた。
ざっとまとめると、主な業務内容は、会食、出張手配、来客の応接、電話、メール対応、資料の作成、会議の準備、それからスケジュール管理だ。
これまた、いかにも秘書って感じ。
「まぁ、こんなところだ。あとは、愛想良くヘラヘラ笑ってりゃ人間関係は問題ないだろ。 今日は初日だし、やれる範囲でいい」
社長。人間関係って、なんだかんだ言って一番大事だと思うんですけど。
果たしてそんな簡単にいきますかねぇ。
「では、ご挨拶をしにいってもよろしいですか?」
「あぁ、頑張れ」
社長の声援?を聞き、私は社長室を出て秘書課に向かう。