俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい
初業務は滞りなく終了した。
お昼休みには、ミチコさん達に誘われて社食名物のカレーを食べた。
これがもう本当に美味しかったのだ。
ピリ辛のカレーは社内で、数種類の香辛料から手作りしているらしく、レシピは企業秘密だとか。
定時になると、蒼泉は私に帰るよう促した。
まだ仕事をすると言う彼を置いていくのは気が引けたが、『今日は初日だから』というお言葉に甘えることにした。
帰宅してすぐ、夕飯の準備に取り掛かる。
これは、『今日は疲れただろうからいい』と言う蒼泉を無視した。
いくら初出勤だからって、心配しすぎよ。
大人になって体力もついたんだから、今はそう簡単に寝込んだりしない。
ちなみに今日のメニューは洋食だ。
和食店の娘だからといって和食しか作れないわけではないし、毎日和食なんて息が詰まってしまう。
私の帰宅からおよそ一時間後の午後六時。
ちょうど、ロールキャベツが美味しく出来上がった頃だった。
玄関の鍵が開く音がして、エプロンのまま向かう。
「おかえりなさい、お疲れ様」
「ただいま。 何だこの匂いは」
「ロールキャベツよ。 キャベツは嫌いなんて子供みたいなこと言わないでね」
嫌味混じりにそう言うと、蒼泉はムスッとして部屋に上がる。
ネクタイを緩める彼からビジネスカバンを受け取って、一緒にリビングへ戻る。
あぁ、なんかもう、これじゃあ普通の夫婦じゃないの……。
仲良くなる気は無いとか散々言ってたくせに。
「キャベツは嫌いじゃない」
スーツを脱ぎながら蒼泉が言った。
嫌いじゃないの?
「じゃあどうして怒ってるのよ」
「怒ってない」
よく言うよ。 むすーっとした顔にぶっきらぼうな受け答え。
これのどこが怒ってないと?
「言っただろ。夕飯はいいと」
あぁ、そっちに怒ってたの。
「確かに言ったけど、私が元気なら問題ないでしょう?」
「今は元気でも、疲れが溜まると体に良くない」
えぇ。そこまで心配されてるの、私。
「分かったわ、気をつけるから。 ほら、ロールキャベツ、出来たてのうちに食べよ?」
本当に大丈夫なんだけどなぁ。
どうも信用されてないようだ。
ま、それも当たり前か。
言っても私たち、出会って一週間もないもんね。
まだ不服そうな蒼泉をテーブルに促し、ロールキャベツを深皿によそう。
それでも蒼泉は、食べ始めると美味い美味いとあっという間に平らげてくれた。