俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい
早く戻ってきてくれぇ……とデスクに突っ伏しながら念じる。
初めて、蒼泉を求めたかもしれない。
ズキンズキンと痛む頭を抑えていると、扉が開いた。
反射的にガバッと顔を上げ、入ってきた蒼泉に声をかける。
「蒼泉!」
「うわっ、びっくりした。 どうした――」
体調が悪い時は、心細い。
誰かに縋りたくなる。 それは、相手があんまり好きじゃない人でも……。
ガタッと立ち上がり、蒼泉に駆け寄ろうとするが、急に立ち上がったせいで目眩がした。
一瞬視界が真っ暗になって、足から力が抜ける。
倒れたら、絶対痛い――!
心の中で悲鳴を上げてギュッと目を瞑るが、その衝撃は感じない。
聞こえたのはバサバサバサッと何かが落ちる音と、「あやめ!」という蒼泉の声。
ゆっくり目を開けると、私の体は蒼泉に抱きとめられていた。
「あっ……ごめ……大丈夫?」
床に倒れる直前で、蒼泉の体勢は如何なものか。
ゴンッと鈍い音も聞こえた気がして、怪我をしていないか尋ねる。
「馬鹿かお前は。 それはこっちのセリフだ」
馬鹿って言われた……とぼんやりした頭で考えていると、不意に、蒼泉の顔が近づいた。
えっ、こんなところでキス!?
毎日濃厚なキスをされてきたせいか、思考が破廉恥だ。
蒼泉はキスをするのではなく、自分のおでこを私のそれにくっつけた。
「熱い。 やっぱり熱があるんじゃないか。 馬鹿が」
また馬鹿って――人を馬鹿馬鹿言うな。
威勢よく言う元気がないので、変わりにこう聞く。
「……やっぱりって?」
「朝から体調悪かっただろ。 変な時間に起き出すし、朝メシ食べないし。 こんなことなら、無理にでも休ませるべきだった」
なんと。バレていたらしい。
「そう………今日は、帰って休んでいい? ごめん、迷惑かけて……」
「迷惑なんて思ってない。 立てるか?」
こくりと小さく頷き、体に力を入れる。
蒼泉に支えられながら、なんとか立ち上がることができた。
そのまま一緒に社長室を出て、エレベーターまで付いてきてくれた。
さすがは重役専用。ボタンを押してすぐエレベーターがくると、それに乗り込む。
「あ…蒼泉? 何してるの」
蒼泉はエレベーターに一緒に乗り込んだ。
「何って、家に帰るんだ」
「えっ…大丈夫よ。 私ひとりで帰れるから。 降りて」
「お前の大丈夫は信用しない」
やっぱり私、信用されてないみたいです。
ドアが閉まると、貸切エレベーターの中では肩を抱かれた。
一番下に着くまでそうしていてくれたので、私は重たい頭を彼の肩に預け、目を瞑った。
やがて一回に降り立つと、朝とは比べ物にならないくらい閑散としたロビーを抜け、帰路につく。
蒼泉はゆっくり、本当にゆっくり、私のペースで歩いてくれた。
やっと家 マンションにたどり着き、部屋に上がった頃には息が荒くなっていた。
寝室に連れられ、ベッドに腰かける。
蒼泉は私にバスタオルとパジャマを渡すと、部屋を出ていった。
薄暗い寝室で着替えを終え、ドサッとベッドに横たわる。
こんなになるまで無理をして、社長である彼まで抜けさせて迷惑かけて、自分が情けない。
再び部屋に戻ってきた蒼泉は、私に何か欲しいものが無いか聞いた。
「大丈夫だから、お仕事、戻って? 本当にごめん、ありがと……」
「戻らない」
も、戻らない!?
「……どうして。社長がいないと、困るでしょう」
「俺一人いなくても別に何ともない。 会社には優秀な人材が何人もいる。 それに、どうしてもの時は呼んでくれとちゃんと言った」
えぇ。じゃぁ、蒼泉も早退しちゃったの?
その元凶の私が言えたことじゃないけど、びっくり。