俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい
「一絵さん、ありがたいんですけど、私…お見合いは……」
「何言ってるのよ!お医者様との結婚はご所望じゃなくっても、結婚するのに越したことはないわ。
おばあさんに花嫁姿、見せたいんでしょう?」
私の心の中を的確に当ててきて、さらにここで祖母を出してくるところ。
一絵さん、さすがです……
自分で言うのもなんだけど、彼女は私の扱いに慣れているのだ。
私、陸(くが)あやめの実家は、陸海(くがみ)という和食店を営んでいる。
小さな店だが、知名度は高く、広い東京でも知っている人は少なくないだろう。
おかげで商売繁盛なので両親は忙しく、ほとんど家にいなかった。
幼い頃から気は強く、怖いもの知らずのお転婆だったのだが、強いのは気ばっかりでよく体調をくずしていた私を看病してくれたのは、両親に変わって祖母。
御歳八十八歳になる祖母には、早く花嫁姿を見せて、曾孫も抱かせてあげたい。
祖母自身は何も言わないけれど、そういった願望は少なからずあるだろう。
祖母孝行には足りないくらいだが、親代わりといってもいい祖母を安心させることはできるかもしれない。
「ね、あやめちゃん!セッティングは任せてくれていいから。あやめちゃんは、楽しみに待っているだけでいいからね!」
声を弾ませて瞳をキラキラさせる一絵さんの姿を見て確信した。
この方、完全に面白がってる。
人の恋路に関わるのが、そんなに面白いのか…
失恋から一週間。次の恋に踏み出すにはあまりに早すぎるような気がするが、一絵さんも楽しそうだし、ここは乗っておこう。
それに、お見合いをしたからってすぐにどうこうなるわけじゃないだろうし。
「分かりました。お願いします」
私は笑みを作って応えた。