俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい
その日の午後には熱がひいた。
まだ若干の気だるさはあるけれど、昨日よりも体が軽い。
「蒼泉、体調悪くない? 移ってない?」
「悪くない。 そもそもお前のは風邪じゃないだろ。移らない」
「でも蒼泉、私に風邪薬飲ませたよね?」
「そ…それは……なんとなく、なにか飲んだ方がいい気がしただけだ。 気休めに過ぎない」
気休めで風邪薬って、あんまり良くなさそう。
けど私は治ったし、ま、いいか。
それに、蒼泉の頬がちょっぴり紅くなってる姿。
きっとすっごく心配してくれたのだ。
「蒼泉!」
「今度はなんだ」
「ありがとう!」
「……俺は何もしてない」
そばにいて……なんて恥ずかしいことも言ったような気がするが、熱で覚えていないことにしてしまおう。
「弱ってる時ってね、誰かがそばにいるだけでものすごく安心するの。 だから昨日、蒼泉が手、握ってくれてすっごい安心したのよ」
なんでか分からないけれど、恥ずかしいことを自分で蒸し返している気がしてきた。
それなのに口からはスラスラ出てくるから困る。
「……そりゃ、良かったな」
蒼泉は照れくさいのか、そっぽを向いて腕組みをする。
その姿を見たら、からかいたくなった。
「照れてる?」
蒼泉の顔を覗き込みわざとらしく笑ってみせる。
「お前。そんなことしてると、知らないぞ」
「へっ? 何のこと―――っ!」
一日ぶりのキスだった。
でも今日は、全然濃厚じゃない。
優しくて丁寧な、長めのキスだ。
「ばーか」
どうしてここでばかにされなきゃならないの!
なんて怒るより先に、私の顔は耳まで真っ赤に染まっていた。
蒼泉も同じだ。
なんで今更こんな恥ずかしくなるの――!?
今まで散々なキスをされてきたのに。
お互い何が何だか分からなくて、しばらく顔を逸らしたまま動けなかった。