俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい

月曜、全快した私は出勤してすぐ総務部に顔を出した。

「あぁー! あやめちゃん、おはよう。 金曜は大変だったわね、もう大丈夫なの?」

ちらりと顔を覗かした段階で、もうそばまで来たのは、ミチコさん。

「はい。おかげさまで。 ご迷惑おかけしました」

「何言ってるの! あなたがお世話をする社長も一緒に帰ったんだから、問題無しよ! そんなことより、これからは無理しないことね。 体を大事になさい」

なんだか複雑な物言いだが、気遣いの言葉をかけてくれるので悪意は無いのだろう。
私はにっこりと笑って頷いた。


社長室に戻ると、随分久しぶりの背中が目に入る。
社長に向かっているので後ろ姿しか見えないが、あの黒髪は――

「おや、あやめさん。 お久しぶりですね」

「山倉さん! お久しぶりです」

やっぱり!
振り返ったのは山倉さんだ。

彼とは前に、蒼泉の荷物が届いた日以来会っていない。
出張に出ていて、この会社で会うのは初めてだ。

「出張から帰ってらしたんですね。 お疲れ様でした」

「ええ、ありがとうございます。 これ、あやめさんにお土産です」

そう言って渡された紙袋には、真っ赤なリンゴが五つ入っていた。

「うわぁ、いい香り! 良いんですか、こんなに頂いてしまって…」

「もちろん。 何がいいかと悩み抜いた末、青森と言ったらリンゴ、に辿りつきました」

うんうん、そうよね!
青森と言ったらリンゴ、私もそうなると思う。

「ありがとうございます、嬉しいです!」

良かった、と言って笑った山倉さんの笑みはとても綺麗だ。
ほんと、蒼泉と並んでもいい勝負よね。

ついそんなことを考えていると、和やかな雰囲気に野次が飛んできた。

「おい、あやめにはあって俺には無いとはどういうことだ」

「社長には、〝良い報告〟を持ってきたではありませんか。何よりの土産話もして差しあげたでしょう。 それに、あやめさんに渡せばどうせあなたも食べることになる。 なら、渡して、折角のリンゴを落とす心配のない彼女のほうに、と」

おぉ、さすが。
ごもっともな意見をすらすらと言ってのける。
カッコいいですねぇ、山倉さん。
蒼泉も文句ばっかり言ってないで見習えばいいのに。

視線を山倉さんから蒼泉に移すと、彼はぐっと口ごもっている。
返す言葉もないようだ。観念したみたい。

やっぱりさすが、山倉さんだ。
< 32 / 56 >

この作品をシェア

pagetop