俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい
その日の夕食後、早速山倉さんにいただいたリンゴを剥いた。
「蒼泉、リンゴ食べない?」
「いらん」
ソファでテレビを見ている蒼泉の背に声をかけると、予想通りの反応。
全く。困った男ね。
朝の一件に、彼は拗ねているのだ。
「あっそ〜。じゃあこれ、ぜーんぶ食べちゃお」
……大袈裟に煽るのは効果なし、と。
椅子に腰かけ、リンゴにかぶりつく。
「うわ、美味し……こんなに甘いの、初めて食べたわ」
蜜が沢山で、絶対美味しいのはみてとれたが、想像以上の美味しさに感嘆する。
シャリッといい音が鳴り、咀嚼する度に甘さが広がる。
今度は大袈裟でもなんでもない。
チラリとソファのほうをみやると、彼と目が合った。
やっぱり食べたいんじゃない。
「ほら、こっち来て、座って。 一緒に食べよう」
リンゴ片手に手招きすると、彼はのそのそと立ち上がってこちらにやってきた。
ふふふ。蒼泉を動かすのは、やっぱり楽しいわね。
「………うまい」
「ね。食べてよかったでしょ〜。 あ、そうだ。明日はカレーにして、サラダに乗せようかな」
実家住まいの時、カレーと共に出されるサラダには決まって薄くスライスされたリンゴが乗っていた。
サラダとの相性は抜群で好きだったし、リンゴの味を生かせるからピッタリだ。
「美味そうだが、無理するなよ。 カレーだけで十分だろ」
「あのねぇ。カレーなんて切って煮るだけだし、サラダは葉っぱちぎるだけ。 そんなので疲れないわよ」
私が熱を出してから、土日は食事を作らせてもらえなかった上にこの心配様。
初めはことある事に気にかけてくれるので感謝していたが、心配度が段々上がってきている。
さすがに過保護すぎるのだ。
「ちゃんと体調管理するし、疲れたら休むようにする。 そんなに心配しないで。 蒼泉が疲れちゃうわよ」
「俺は別に――」
「はい、食べたらお風呂入ってきて。 たまには蒼泉が一番風呂よ」
何か言いたげな表情の蒼泉を無理やり立たせると、背中をグイグイ押してお風呂場のある廊下へ追い出す。
人の心配もいいのだけど、私は蒼泉の体も心配しているのだ。
秘書として彼の仕事っぷりを間近で見るようになり、蒼泉の忙しさに驚いている。
私が声をかけなければずっとパソコンや資料と睨めっこ。
コーヒーを淹れ、大声で呼び、やっと手を止める。
その繰り返しだ。
夜は家でも仕事をしているので、一緒に布団に入ることはなくても、朝起きたら隣に寝ている。
大企業の社長なだけあって、彼は毎日忙しい。
なら私は、仕事でもプライベートでも彼の支えになれるよう努めたい。
蒼泉と出会って一ヶ月弱。
私はそんなふうに思うようになっていた。