俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい
でもそんなこと、私には言えない。
本人のいない所で私がエリカさんを振るのは変な話だ。
誰がなんと言おうと、最終的に選ぶのは蒼泉。
このまま愛無き結婚をするか、愛される結婚をするか――
「ごめんなさい。 私からは何も言えないわ。 あとは蒼泉本人に直接お願いします」
にっこり笑顔を添えてそう言うと、エリカさんは面食らったような表情をした。
私がこんなに強気に出るとは思わなかったのだろう。
「そ、そうね。そうさせてもらうわ。 ちなみに私は社員を代表して来週から一条コーポレーション本社の総務へお世話になるの。 後で悔しがっても知らないわよ!」
来週って……明日じゃない!?
しかもよりによって総務?
エリカさんは吐き捨てるように言いながら離れていく。
その背を見送りながら生唾を飲んだ。
彼女のあの様子……波乱の予感しかないわ。
自販機に向き直ると、時間切れでお金が戻されていた。
厄介な人が現れたものだと溜息をつきながら、りんごジュースのボタンを押した。
「蒼泉、お待たせ。 大丈夫?」
「あぁ、ありがとう。落ち着いた」
会場の方へと戻ると、立ち上がって壁に背を預ける蒼泉の元へ駆け寄る。
りんごジュースを差し出すと一瞬驚いてから受け取り、一口飲む。
「遅かったな。何かあったのか」
「ううん、何も。 帰り道に少し迷ったの」
有吉商事のご令嬢に宣戦布告的なのをされてました。
とは言わないでおく。
今私が言わなくても、いずれ分かることだ。
本人も愛の告白なら自分でしたいだろう。
「そうか。 もう少し遅かったら、探しに行くところだった」
どうやら心配させてしまったようだ。
「ごめん、私は大丈夫よ」
笑みを作ってそう答える私に、蒼泉は笑って頷いた。
それからパーティーに再び戻ることにした私たちは日が暮れるまで挨拶回りに勤しみ、二十時ころ帰宅した。
まだパーティーは終わっていないのだが、参加者で残っているのは酒好きのおじさんがほとんどだから、もういる必要は無いという。
蒼泉はお酒が苦手らしい。
私も得意ではないから、早く帰れるのは正直助かった。
その日の夜蒼泉は眠る前、有吉商事の吸収合併について話した。
当然私は、あまり驚くことは無かった。