俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい




駅から徒歩五分の所にひっそりと建つ、スーパー角谷(すみや)。
ここが私の職場である。

大学卒業後は、会社に就職するつもりでいた。
ところが、その時に限って両親が大反対。

実家の手伝いをしないことにすら文句を言わず、普段私のすることに口出しなどしないのに、その時ばかりは断固として意見を変えてくれなかった。

結局、食品に関わる仕事イコールスーパーの店員……という謎の提案によって、このスーパーに務めることは許してもらった。

私自身、ただ外に出て働きたかった、というのもあったので、今現在、優しい先輩にも出逢えたし、結果オーライということで満足している。



「おはようございます!」

「あやめちゃん、おはよ〜!」

スタッフルームで、パート仲間のおばさま達に挨拶をする。

赤いエプロンに赤い三角巾。お馴染みの、皆同じ格好だ。

今日は土曜で、一絵さんがお休みなので少し寂しいが、きっと今頃、一歳になる可愛い息子くん、ヒカリくんとご主人と動物園にいるのだろう。

昨日、ヒカリくんにとって初めての動物園だと言っていたから、どんな反応をするのか私まで楽しみだったりする。

一絵さんのお腹にいる頃からよく話しかけていたせいか、ヒカリくんは人見知りが始まっても私には抱っこをせがんでくれた。
あれは本当に嬉しかった。


「ちょっと〜?何にやにやしてるのよ、気持ち悪いわねぇ」

うそ。私、顔に出てた!?

「色ボケもいいけど、仕事もちゃんとしてよね!全く。あやめちゃんをそんな顔にさせるオトコ。どんな子かこの目で見てみたいわ」

何やら物凄い勘違いをされているようだが、一週間前その彼氏と別れたことは言わないでおこう。

おばさまたちは皆、心はまだまだ若い。
色恋沙汰は大好物なのだ。
きっと質問攻めにされて、仕事どころではなくなってしまう。


「あはっ。気をつけます」

ヘラりと笑って、躱しておいた。
< 4 / 56 >

この作品をシェア

pagetop