俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい

それから一週間と少し。
私はひたすらに考えた。

モヤモヤの理由。

モヤモヤのひとつ、蒼泉がエリカさんを好きかもしれない件について。
それを解決するために、一番手っ取り早い方法。

本人にずばり聞くことだ。


聞いてどうするの?
もし頷いたらその後は?
婚約破棄?
そもそもそれで解決する?

色々なことが頭をよぎった。
彼の反応も数十種類は想像した。

その末、最終的にたどり着いたのは、〝なるようになってしまえ〟だった。

たとえ彼の答えがどんなものであっても、その時に考えよう。
蒼泉がエリカさんを好きなら、婚約破棄について話し合う。
彼がどうしたいかも聞いて、二人で最善の策をとる。

今の私には、〝ハッキリさせる〟それが一番だと思った。

昔から強い〝気〟で、どうにかしてやろうじゃないの!


そうと決まれば、その日は賑やかな食卓で蒼泉を迎えた。

テーブルに並んだ和食膳を前に目をぱちくりさせる彼を気にせず食卓につく。

「豪華だな……熱でもあるんじゃ――」

「いいえ。至って元気です。 二日酔いで元気のない方にはあさりの味噌汁をどうぞ〜」

いただきますと手を合わせ、勧めたあさりの味噌汁を飲む。
二日酔いにはしじみの方がいいらしいが、生憎あさりしか冷蔵庫に無かったのでその辺はご愛嬌。

とにかく今朝は、蒼泉に聞くと決めた緊張から随分な早起きをしてしまったのだ。
その結果がこの豪華な朝食である。

以前もこんなことがあった時は、体調不良からくるものだったので、彼が心配するのは無理もない。

訝しげな顔のまま席につく彼を、真正面からこっそり観察する。

朝起きたての彼は、何をとっても無造作だ。
あちこちにはね散らかった髪、眠たそうな目――

これ以上考えていたら変態になりそうなのでやめておくが、この散々をあと数時間後、家を出る時には全く感じさせない術を持っているのがまた凄い。

――この通り、スリーピーススーツをバッチリ着こなすのだから。

「お前は何を朝からニヤニヤと。 その緩んだほっぺた引き締めろ」

「はいは〜い」

そして変貌を遂げるのは姿かたちだけでなく、口調も声音も。

玄関先での嫌味やダメだしも慣れたものだ。
まぁしかし、今日に至ってはやっぱり緊張からくるものだ。
どうやら緊張するとにやついてしまうタチなようで……。


――斯くして彼の無造作さは、朝限定のレア物なのです。

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