俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい
決行は今夜、夕飯後の予定。
私は一日中、どう切り出そうかを必死に考えた。
当たり障りのない話から始めて油断させたところで核心を突けば、万が一シラをきるつもりでも動揺させることは出来るかもしれない、という作戦だ。
けれどもその作戦はあっさりぶち破られることとなった――
「お前、朝から様子がおかしい。 何か話したいことでもあるんだろう」
オーマイガー。まさかモロバレだったとは。
これでも日がな一日平静を装っていたつもりなんだけどな……。
でももう、逆に核心を突かれてしまっては油断させる作戦はおジャンね。
ええいままよ! もう知らない!
「蒼泉!!」
「おう、なんだ」
彼は優雅に私が煎れたお茶を啜る。
「エリカさんのことが好きなら、私との婚約は破棄してもいいのよ!?」
…あれ? あれれ……なんだかものすごく上から目線な口調だ。
こんな言い方するつもり無かったのに。
緊張からか、声が上ずるし。
ていうかそもそも、私なんで緊張してたんだろう……。
色々と自分が分からなくて悶々としていると、ワンテンポ遅れて蒼泉がごふっと噎せた。
咳き込みながら私を凝視している。
そんなにビックリすること聞いたかな…?
あ、もしや、図星……だったりして。
「……おま、そんなこと考えてたのか?」
「え、ええ、だって蒼泉、エリカさんと仲良く――」
「してない」
「…そ、そうかなあ」
「あっちが勝手に寄ってくるだけだ」
それはまあ、確かにそうかもしれないけど。
一番聞きたい事を聞かなければ。
「それで、どうなの? 好きなの?」
「好きじゃねーよ」
な、どうしてそんな怒ったような言い方……
「で、でもこの間蒼泉、酔っ払って帰ってきた時言ってたよ? 好きだ……って。 相当酔ってたから覚えてないかもしれないけど…」
ちらっと彼の顔色を伺うと、なんとまあ真っ赤っかじゃあないですか。
やっぱり好きなのね…エリカさんのこと。
「…それはお前のことだ」
私…のこと……そそそそそれって、まるで蒼泉が好きなのは私とでも言うような――!
今度は私の頬がぶわっと熱くなる。
確証は持てないのに恥ずかしい。多分、耳まで真っ赤だ。
「あの夜のことははっきりおぼえてる。 エリカに散々飲まされて帰って、勢いで言った」
勢い…? ってことは、本気じゃないってこと?
なに、それ。 ちょっとショックを受けている自分がいる。
胸がちくりと痛んだ。 喉も熱い。
涙腺が緩みそうだ。
そんなにショックだった?
蒼泉が私のことを好きかもしれないと知って恥ずかしくなって、勢いで言ったと言われれば泣いて
…これじゃあ、私も蒼泉のことが好きみたいじゃない。
そんなわけない、そんなわけ、ない、はず。
「勢い、ね。 …と、とにかく、エリカさんに恋愛感情がないことは分かった。 私が知りたかったのはそれだけよ。 じゃ、お風呂、先に入るね」
そう。私が知りたかったのはそれだけ。
蒼泉のエリカさんに対する気持ちだけ。
彼への恋心じゃない。
だけど……
心のモヤモヤとか。今回のことだって、緊張すること無かった。
全部恋煩いとでも言ってしまえば、辻褄は合う。