俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい

「それは、本当か…!?」

予想外の驚きように、一瞬たじろぐ。
さすがにそろそろ、少しくらいの信用は生まれたと思っていたんだけど。

「本当。 ……エリカさんと蒼泉の仲が良さそうな姿を見て…嫉妬、してた」

「そうか…それは喜ばしい」

「う、嬉しいことなの?」

「ああ。 それだけ俺のことが好きということだろう。 嬉しいに決まっている」

そういうもん…なのかな…?
それならそれで、良かった。
蒼泉は喜んでくれたようで。


「と、ところで蒼泉。 全身、ぼろぼろね」

ぶわっと恥ずかしさが一気に込み上げてきた私は、赤い顔を隠すように目を逸らして話題を変える。

外で愛人とお遊び帰り…と誤解したくらいの様だ。
蒼泉の答えはだいたい予想できるので、この質問は照れ隠しにすぎない。

「エリカに泣きつかれた」

やっぱり。 そうだろうとは思っていた。
エリカさんの姿が想像出来る。

「そう…」

私は振られたエリカさんを心配できる立場にない。
今の私からエリカさんへの、気遣い、労り、慰めは、嫌味も同然。
そんな気が決してなくても、相手は良い気はしないだろう。
逆だったら私だってイライラする案件だ。

「あいつは大丈夫だ」

私の心の中を知ってか知らずか、蒼泉は随分と自信たっぷりに言った。
エリカさんのことは蒼泉もよく分かっているのだろう。
けれど今回に限っては、振った本人の言うことだからなぁ…。


「ところで、あやめ」

さっきとは逆に、彼が私を窺う。

「抱いていいか」

…断る理由は無いのかもしれない。
晴れて両想いになった私たちは、順序が逆でも、一般男女の夫婦間にある〝愛〟を確認した。
気持ちが通じあった婚約者同士、今なら彼に身体を委ねることに抵抗は感じない。

ちょっとストーカーぽい彼を知ってしまっても尚、それですら好きだと感じたのだ。

けれど同時に、溢れんばかりの羞恥心が私を襲う。
恥ずかしい。 ただただ恥ずかしい。

何も答えないでいると、承諾と受け取られたようだ。
慣れ始めにハグを…とでも言うような、優しい抱囲をされた。
私は彼の背中に手を回して応える。


「もっと早くこうしたかった」

耳元で、そんなことを言う。

「もっと早かったら、突き飛ばしてたわ」

私は正直に言い切った。
肩を竦めて、「それは痛そうだ」と嘆く蒼泉が、そっと体を離す。
私たちの間に隙間はない。密着したまま、今度は唇が近づいてきた。

ちゅっと優しいリップ音がしたと思ったら、それは徐々に激しさを増す。
早々に酸素が足りなくなりそうなので、慌てて訴える。

「蒼泉、おふろ、先に――んんっ」

私の必死の訴えはろくに届かない。
やがて一旦唇が離れる頃、既にヘロヘロの私の耳元で意地悪く囁かれる。

「一緒に?」

慌ててぶんぶんと首を横に振ろうとするのに、耳たぶをかぷっと喰べられて、代わりに甘ったるい声を出してしまう。

私はお風呂はもう済ませたの。入るのは蒼泉よ!蒼泉のスケベ!

そう叫ぶ前に、蒼泉はまた私の唇を塞いだ。

それから彼がシャワーを浴びてくれたのは、更に私がヘナヘナになった頃で、数分と待たず戻ってきた蒼泉に、もれなく身を委ねることとなった。

多分、だいぶ我慢してシャワーを浴びてくれたのは、私への休憩時間提供といったところだろう。

ろくな休憩にもならなかったのだが、彼の忍耐力に免じて何も言わなかった。

彼の熱を感じ、余裕のない顔を見せると楽しそうに笑う蒼泉からは、どことなく私と似た〝S気質〟を感じた。
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