俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい


それから一ヶ月と少し。
エリカさんは宣言通り、蒼泉とは副社長の秘書として接している。
ここにきて、彼女の性格がよく分かってきた。
それは総務の皆さんも感じていることで、言いたいことははっきり直球。 雰囲気は、余計な仕事は致しません! なエリカさんだが、実はよく気がついて優しい娘だ。

ここぞとばかりに感謝の気持ちや褒め言葉をかけると、ぽっと頬を赤くして『た、大したことでは…』なんて照れる彼女は、二十五歳の可愛らしい女性だ。

そんなエリカさんと副社長は、結構いいコンビだったりする。
きっちりして真面目そうな副社長だが、少し抜けたところがあるらしい。 エリカさんはその〝少し〟を、文句を言いながらも完璧に埋めて損害は出さない。
エリカさんに怒られてしゅんとする副社長は新鮮だし、何より楽しそうだ。
歯に衣着せぬエリカさんの物言いを、副社長が面白がりながら受け取っている感じ。


そして蒼泉と私は――

「いいや、絶対に別日にするべきだ」

「同じ日でいいわよ。 ややこしいじゃない」

結婚式を挙げることになった私たちは、式と披露宴の日取りについて討論中である。

お互いの気持ちを確認し合い、相思相愛となってもこれといって変わったことは無い。
相変わらず、朝は一緒に出勤し、定時帰宅の私が夕飯作りを終えた頃、蒼泉が帰宅。
一緒に食卓を囲み、最近では蒼泉が後片付けも手伝ってくれる。

夜の方も、お互いの気持ちを尊重しながら抱き合う形だ。 一応、まだ婚約期間ということもあり、律儀な蒼泉は避妊は欠かさない。

良い関係を築けていると思う。

ひとつ、文句があるとすれば。

「ダメだ。 あやめが疲れて寝込んでは困る」

蒼泉の異常なまでの過保護さだ。
式と披露宴は同じ日に、という私とは逆に、蒼泉は断固として別日を推してくる。

理由はほかでもない、私の体調を気遣ってのことだ。
それは分かる。心配してくれるのは有難いし、気遣いも嬉しい。
ただしそれは、〝ほどよく〟に限る。

ちょっと模様替えをしようと小さな棚を持ち上げれば、『ぎっくり腰になったらどうする』といって取り上げられ、仕事帰りにスーパーで大量買いして帰れば、冷蔵庫いっぱいの食材を見て
『もう一人で買い物に行くな。 これからは俺がついていく』。
仕事を残業しようとすればすかさず『おまえは残業禁止! 今すぐ帰って休め』と。

私は老婆? いいえ違います。

至って健康の二十代です!
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