俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい
エピローグ



五月。
鏡に映った自分の姿に、さっきから頬の緩みが治まらない。
純白のウェディングドレスに身を包み、いつもの何割増かのメイクを施された自分が、自分じゃないみたい。

今日は一生に一度の、主役になれる日。
蒼泉のお嫁さんとして、隣を歩く日だ。

昨日、市役所へ行って婚姻届を提出した。
お日柄の良い、大安の日だ。

入籍を済ませ、私は正式に蒼泉の妻、一条あやめになった。

蒼泉は相変わらない独占欲を私に向けては、やってしまった、と落ち込んで。
まだまだ制御の修行は足りないようだけれど、私のためにどうにかしようとしてくれている蒼泉の心意気が嬉しくて、また幸せだ。

昨日も役所から帰ると、突然蒼泉が私を抱きしめた。
もう何度もキスもハグもそれ以上のこともしているけれど、不意打ちは慣れないものだ。
私は赤い頬でどうしたのかと聞いた。
すると彼は、

『おまえを好きになってから今日まで、気が気じゃなかった。
強引な契約結婚をさせたし、書類上でも俺のものにならないといつ離れていってしまうかと油断はできなかったからな』

なんて言うのだ。
独占欲、丸出しですよ蒼泉さん。

『やっと、おまえは俺のものだ。 それでもおまえは可愛すぎるから、やはり一生安心はできないがな』

この人は大変だ。
私のことが大好きすぎるあまり、一生気を張っていなきゃならないなんて。
でもまぁ、それは私も同じだけれど。

『そんなの私もよ。 蒼泉はモテるんだから』

『あやめ以外にモテても全く嬉しくない』

そのあと何を言っても、そんなあまーい言葉で返されるのだから、昨日は一日私の心臓が危なかった。
それだけ、蒼泉は私を自分のものにできたことが嬉しかったのだろう。

私、旦那様に愛されてるんだなぁ〜。

ひとりにやついていると、控え室のドアがノックされた。

「新郎様のご準備が整いました」

プランナーさんの声だ。
ドキリと心臓が跳ねる。 あぁ、蒼泉、絶対にカッコイイわよね……!

ガチャりとドアが開く。

現れたのは、とんでもなくイケイケの旦那様、蒼泉だ。
タキシードをばっちりビシッと着こなしてくれちゃって、私をどうするつもりでしょう。

「あやめ…」

「蒼泉…」

お互いの名前を呼びあって、しばしぼうっと惚けていた。
その間に、プランナーのお姉さんは気を利かせてそっと控え室から出ていく。
ああ、気を使わせてばかりでごめんなさい。

「綺麗だ…」

「最高にカッコイイわ」

声が重なる。
ふっと笑いあって、一歩ずつ近づく。

ふわりと包囲され、心臓がキュンと鳴く。
イレギュラーな雰囲気や状況に、気持ちも高揚する。

五分ほどで再びプランナーさんがやってきた。
たくさんの人が、私たちを待っている。

私は長いドレスを持ち上げられ、進んでいく。

蒼泉は先にチャペルへ行くので、一旦ここでお別れだ。
彼の肩や手が小刻みに震えているのを見逃さなかった私は、コソッと耳打ちをする。

「蒼泉は、私のことだけ見てればいいのよ」

緊張していることがバレたというより、私の発言に驚いたと言った顔だ。
それから若干頬を赤くして言う。

「分かった。 頑張る」

ぎこちないながらも屈託のない笑顔を見せようとする彼をくすりと笑ってから、私たちはそれぞれ位置についた。

彼とふたりで決めた、結婚式と披露宴。
結局、両方とも同じ日に行うことになったのだ。
折れてくれた彼の修行は、ちゃんと効果を発揮している。

それから私は父と並び、バージンロードを歩いた。
父から蒼泉の手へと受け渡され、私たちは見つめ合う。

まだ緊張している蒼泉だけど、その瞳はしっかりと私を捉えている。

「愛してる」

「私も。愛してるわ」

ほんの一瞬の間に、私たちふたりにしか聞こえない声で交わした。

長い長い人生を、これから共に歩んでいく彼は、私の最愛の旦那様。
私は彼の、初恋の人。







*END*

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