いつの間にか、君に恋していたんだ。
「あら、おかえりなさい。伊鳥」
「おかえり、伊鳥」
「伊鳥、おかえり」
優しい裕美さん達。
でも、それはお父さんが帰ってきてるから。
「ただいま」
顔、引きつってないよね……?
そう思いながら、笑顔を作る。
「今日は伊鳥の好きなスパゲッティよ。食べて」
にっこりと笑う裕美さん。
いつもなら、そんな笑顔を私に向けてくれることはないのに……
「嬉しいな。ありがとう、裕美さん」
私はなるべく頑張って笑顔を作って、明るい声を出した。
普段、家で笑うことはないから、家では表情筋を使うことがないんだよね。
だから、ちゃんと笑えてるか心配。
笑えてる、よね?
「裕美さんじゃなくて、お母さんと呼んでくれてもいいのよ?」
今度はにっこりと笑った顔が怖い。
ちょっと返答に困るな……
「うん、そうだね」
適当に返して、それだけは避けた。
私のお母さんは、生涯にたった1人。
それ以外の人をお母さんなんて思わない。
ましてや、裕美さんのことをお母さんと思うなんて……絶対に無理。
敬語だけでも今は取れてるから、それで勘弁してほしい。
「それにしても、伊鳥遅かったな。部活でも入ってるのか?」
「ううん、そうじゃなくて。お父さんには言ってなかったけど、昨日から神崎君という友達の家の家事をすることになったの。神崎君のお母さんが今旅行でいないらしくて」
「なるほど、そういうことか」