花束
「そろそろ行くわね。今日の午後、レティシアと会う約束をしているの。そう、あなたが救った人に会いに行く」

もう大切な人は自分の目の前から消えてしまった。しかし、女性の胸にある感情は消えない。そして、大切な人の一部はこの世界で生き続けている。

「心から、愛してる」

女性はそう言い、お墓に向かって笑う。細くなった瞳から涙がこぼれ落ちた。

この物語の始まりは今から十年以上前に遡る。物語の舞台はまだフランスではなく日本の東京だ。

日本でも指折りの大金持ちの家である花園(はなぞの)家には、長い間子どもに恵まれなかった。しかし、幸運にも可愛らしい女の子が誕生し、両親はその子どもを華恋(かれん)と名付け、花園グループのお嬢様として大切に育てていくことを決めたのだ。

「華恋には花園グループを引っ張っていける男と結婚して跡取りを産んでもらわないとな」

「なら、社交会で恥ずかしくないように育てないと。ピアノに英会話、塾に華道や茶道、書道も習わせないとね」
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