DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
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辛島さんの腕の中で意識を失い、目覚めたら病院の処置室のベッドの上だった。
頭は打っていないものの、念のため諸々の検査をした後、結果が映し出されたパソコンの画面を睨む髭面の男性医師は、人生をひっくり返すような重大な情報をにこりともせず告げた。
「まぁ、ショックと……ちょっとした貧血だな。それと……トラ。妊娠してるぜ? おまえの奥さん」
「に、妊娠!? 妊娠って、あの妊娠かっ!? 本当だろうなっ!?」
わたしの傍らにいた辛島さんが、医師につかみかかりそうな勢いで問い返す。
「てめぇ、医者の言葉を疑うとは、いい度胸してんじゃねぇか」
ギロリと彼を睨んだ医師は、辛島さんのお兄さんと中学の同級生で(やんちゃしていた仲間)、現役の飲み仲間。弟のこともよく知っているようだ。
「いや、疑っているわけでは……ゆ、夢のようで、信じられんだけで」
「俺も信じられんよ。おまえが嫁をもらう日が来るなんてなぁ。世も末だ。ところで、アンタ。コイツに脅されてるのか?」
「ち、ちがいます。そ、それに、嫁では……」
「諦めろ。嫁になる以外に、生き延びる道はない。逃げても無駄だ。コイツは、どこまでも追いかけて来る」
がっしっと肩を掴まれ、真顔で諭され、つい頷く。
「先輩っ! 俺は、ストーカーじゃねぇっ!」
「このまま産婦人科に引き継ぐから、今後のことや詳しい説明はそっちで受けてくれ。トラは、退院まで病室に籠ってろ。奥さんにくっついて、産婦人科に行ったりするんじゃねぇぞ? おまえの凶悪なツラに驚いた妊婦が、うっかり産気づくかもしれねぇからな」
「んなわけな……」
辛島さんの反論を無視し、医師は冷たく命令を重ねる。
「それと、小児病棟には絶っ対に! 近づくな。子どもがうなされたり、夜泣きしたりするかもしれねぇ。そんなことになったら、俺が看護師たちから突き上げを食らう。アイツらを敵に回すと、恐ろしい目に遭うんだよ!」
「…………」
理不尽なことを言われる辛島さんをかわいそうに思ったけれど、「そんなことはない」という慰めの言葉は、口が裂けても言えなかった。