DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
「かしこまりました。ショートケーキとモンブランを二個ずつ。その他の生ケーキを全種類一個ずつ。アップルパイとピーチパイをワンホール。焼き菓子については、パウンドケーキを二本。マドレーヌとフィナンシエはどうなさいますか? 日もちしますし、こちらは冷凍もできますが」
『それなら、三……いや、五個ずつで!』
「では、五個ずつで。なお、ご愛顧いただいたお礼として、みなさまに別途マカロンをプレゼントさせていただいているのですが、ピスタチオ、フランボワーズ、チョコレートで、お嫌いな味は……」
『あるはずがないだろうっ! ちなみに、各種一個限定で?』
「いえ、そういうわけではございませんが」
『では、二個ずつ! その分の代金を請求してもらってかまわないのでっ』
「いえ、お代はちょうだいしておりません。ほかのお客さまにも、ご希望があれば複数個さし上げていますので。三種類、二個ずつご用意いたしますね。ご注文は、以上でよろしいですか?」
『……うん』
(うん? うん、って……)
「では、心よりお待ちしております」
『よろしく、お願いします……』
電話の向こうで、深々と溜息を吐くのが聞こえた。
「ありがとうございました」
『…………失礼します(涙←たぶん)』
辛島さんは、がっかりしているのがありありと感じられる様子のまま、電話を切った。
ここまで愛されるなんて、長年店をやって来たオーナーも本望だろう。
しかし、こんな量をどうやって食べきるつもりだろうか。
(まさかの大家族? それとも一人で……)
テーブルにずらりと並ぶお菓子を前に喜ぶ男性の姿を想像しかけ、それがヒグマの形を取りかけたところで、やめた。
(男のひとだって、甘いものが好きでもいいじゃない。嫌いなものがあるより、好きなものがあるほうがすてきじゃないの)
先入観や偏見は、目を曇らせるだけ。
いいことなんか、何もない。
そう結論づけたところで、ふと今朝の出来事が思い出された。