DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
(あの人だって、ヤのつく職業と決まったわけではないし。もしかしたら、マのつくほうかもしれないし。もしくは、アスリート……いや、プロレスラーとか……。ううん、ちゃんと本人に確かめるまで、あれこれ想像するのは止そう)
見た目で判断するのは、アンフェアというものだ。
かわいい顔、優しそうな顔をしていても、中身がそうとは限らないことは、半年前に思い知ったではないか。
これまでお付き合いしたことのないタイプだからこそ、お友だちになってみるのもいいだろう。
その場合、まずはあの見た目に慣れる必要があるけれど、美人は三日で飽きるというし、コワモテも三日で慣れる……かもしれない。
(わざわざ引っ越しの挨拶をしたいと言うほど、礼儀正しいんだもの。悪い人じゃないわよ、きっと)
ひとり納得し、いま受けたばかりの注文を素早く予約票に書き出して、日付順に分けてある引き出しに入れた。
「ももちゃん、ごめんね? 帰り際に。大丈夫だった?」
「はい、大丈夫です。予約注文のお客さまでした」
厨房から出て来たオーナーと共に店の奥、住居へと続く扉を潜る。
表通りに面した部分が店舗、厨房を挟んで裏通りに面した部分が住宅という造りだ。
二階建てで、もとは二階部分を居住スペースとして使っていたが、奥さんが散歩中に転んで足を骨折して以来、ちょっとしたリフォームをしてリビングの横にある八畳ほどの客間を寝室にしていた。
「おつかれさま。ももちゃん、今日も忙しかったでしょう? 紅茶淹れたから飲んでいって」
「ありがとうございます」
にこやかに出迎えてくれたのは、塩原さんの奥さんだ。
帰り支度をする前に、奥さんが淹れてくれる紅茶を飲み、賞味期限が近くなって店から下げた焼き菓子を頬張るのが日課。
ひと息つきがてら、店頭に立つことができない奥さんに、その日のお店の様子や常連さんなどの様子を報告するのがわたしの役目だった。
「そう言えば、さっきの電話。辛島さんでしょう?」
常連さんのあらゆる情報が頭に詰まっている奥さんは、電話が架かって来るタイミングやわたしの対応で、相手の予想がつくらしい。
ズバリと言い当てる。
「はい。閉店のご挨拶をしたら、ものすごくがっかりされて。お店じゅうのものを買い占める勢いで注文されました」