DOLCE VITA  ~ コワモテな彼との甘い日々
「そんなに?」

「ええ。ケーキ全種類、パイ、焼き菓子と……」


わたしが伝えたとんでもない量の予約注文に、オーナーが慄く。


「す、すごい量だね。いままでで一番かも……」

「それほど気に入ってくださっていたなんて、こちらとしては嬉しい限りだけれど、申し訳ないわ。辛島さんもそうだけれど、ももちゃんも。わたしのせいで、ごめんなさいね」


沈んだ表情で謝る奥さんに、慌てて否定する。


「とんでもないっ! わたしこそ、十分な恩返しもできずに申し訳なくて……」


オーナーが閉店を決めたのは、厨房に立つのが体力的にキツくなったことに加え、奥さんが怪我の後遺症でこれまでのように動き回るのが難しくなってしまったから。

子どもがいないこともあり、この先のことを考えて、お互いの兄妹や親せきがいる生まれ故郷に帰る決断をしたのだ。

ちなみに、塩原夫妻は家が隣同士の幼馴染で、生まれた時から小、中、高校とずっと一緒。

オーナーが、有名なパティシエに弟子入りするために、一時期日本を離れることになったのをきっかけに結婚し、支え合って生きてきた。

ずっと二人三脚できたのだから、最期までそうありたいという二人は、とてもすてきなご夫婦だと思う。


「そんなことないわ。渡りに船だったのは、わたしたち。ももちゃんのおかげで、常連さんにも不義理をせずに店を畳めるのよ。ほんとうに、ありがとう」

「そうだよ。ももちゃんが来てくれたから、この半年がんばれたんだよ。あの時、新人のももちゃんを偉そうに説教してしまったから、もう来ないかなと思っていたんだ。それが、ずっとお店に通ってくれて、しかもこうして手伝ってくれて。本当に感謝してるよ」


優しい言葉に、涙が出そうだった。


「そんな……わたしこそ……」

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