DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
塩原夫妻との出会いは、六年前に遡る。
社会人一年目、入社したてのわたしは、直接顧客との取引を担当するグループ会社で研修中だった。
不慣れなためミスをすることも多かったが、なんとか大事は至らずに三か月の研修期間を終えようとしていたある日。
注文を取り違えた上に、納品期日を後ろ倒しにまちがえるという大失態を犯してしまった。
その取引先が、「Souvenir」だった。
大口の注文ではなく、もともとオーナーが余裕をもって注文してくれていたこともあって、先輩社員たちの尽力により、お店の営業に迷惑をかけることなく納品することができた。
しかし、何とかなったから不問というわけにはいかない。
後日、先輩社員と一緒に謝罪に伺うことになったのだが、わたしは泣いているばかりで、ロクにお詫びの言葉も紡げぬ有様。
塩原さんは、そんなわたしを優しく、しかし厳しさをもって叱ってくれた。
『最初から、新人なのだから失敗しても許されると思って仕事をしてはいけないよ。けれど、失敗から学ぶことはたくさんある。新人のうちに失敗をして、独り立ちしたときには同じ失敗をしないように。そして、君を助けてくれた先輩のように、自分も新人の後輩を助けられるよう、今日のことを忘れず励みなさい』
帰り際、塩原さんの奥さんは「泣いたあとには、甘いものを食べると元気になれるのよ」と言って、「ショートケーキ」と「モンブラン」を持たせてくれた。
洋菓子があまり好きではないわたしだったけれど、「Souvenir」のケーキは美味しくて、大ファンになった。
以来、本社に戻ってからも、時々「ショートケーキ」と「モンブラン」を買いに立ち寄るようになり、そのうち奥さんの茶飲み友だちになって、ちょっとした仕事の愚痴や恋愛相談なんかもするほど親しくさせてもらうようになった。
そんなお付き合いも六年目に差し掛かったある日。
会社を辞めることになったと報告した矢先、奥さんが骨折した。
お見舞いに訪れた病室で、もし次の仕事が決まっていないなら、店を手伝ってほしいと二人に頼まれて、二つ返事でOKした。
あの時、二人が拾ってくれなかったら、きっといまも立ち直れずに、働くことだってできずにいたかもしれない。
「ところで……次の就職先は、決まりそう? わたしたちも知り合いに声をかけているんだけれど、なかなか……」
「あ、それは大丈夫です! 友人の伝手で、仕事を紹介してもらえそうなんで」
にっこり笑ってサムズアップをしてみせる。
次の就職先のアテなどなかったが、大恩人の二人にこれ以上心配も迷惑もかけたくなかった。
「そう。それならよかったわ」