DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
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裏通りに面した玄関を出ると、すでに日は落ちていた。
ほんの半月前までは、この時間帯でも空気は熱を孕み、息苦しさを覚えるほどだったが、いまは紅茶で温まった身体が汗ばむこともなく、ほどよい気温だ。
まだまだ夏だと思っていたけれど、確実に季節は移り替わっている。
マンションまでは歩いて十分だが、スーパーに寄り道して、割引になった総菜を購入した。
もともと、料理は嫌いではないが、自分ひとりのために作るのは張り合いがなく、ついさぼりがち。
質素倹約必須の生活でも、気分転換、ストレス解消にちょっとくらいの贅沢をするのは、必要経費のうちだ。
買い物カゴに、ビールと酎ハイを放り込み、マンションに帰り着いたのは七時半を少し回った時刻。
エレベーターを三階で降り、通路を奥へと進む。
今朝の騒がしさの痕跡は、どこにも見当たらない。
(来るって言ってたけど……本当かな?)
半信半疑ながらも、まったく無視するのも気が引ける。
九時までシャワーを浴びるのを我慢したが、その日コワモテのお隣さんが部屋を訊ねて来ることはなかった。
その翌日も、翌々日も。
隣の部屋は、あの引っ越しが嘘だったかのように静まり返り、人が住んでいる気配がまったくしないまま、八月最後の金曜日――「Souvenir」が閉店する日を迎えた。