DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
「その気持ちはありがたいけど、わたしだって空気くらい読むし」
「傍若無人が服を着て歩いていると言われる柚子が? まさか、マリッジブルー?」
「マリッジブルーは、むこうよ」
「え? 隼人さんも、ついに柚子がオヤジだってことに気がついた?」
出るべきところは出て、引っ込むべきところは引っ込んで。
十人中十人が美女と言い切る柚子の正体は、オヤジだ。
おしゃれなグラスでワインをたしなむのではなく、日本酒の一升瓶を傍らに置き、お猪口ではなくコップで呷り、スルメやらサケトバやらをつまみに飲んだくれるのが日常。
しかも、虫も殺せぬような顔をしていながら、空手、柔道、剣道、合気道……etc、あらゆる武道に精通し、護身術もばっちりだ。
痴漢やストーカーを投げ飛ばし、蹴り飛ばし、殴り倒し、過剰防衛で訴えられそうになるのは、珍しくもないことで。
彼女の生態をよく知るお金持ちのご両親は、彼女専用の弁護士チームを雇っており、相手を肉体的にではなく社会的に潰すという、さらにえげつない真似をするとかしないとか。
本人は、売られた喧嘩以外は買わないと言っているが、とにかく凶暴。
触らぬ神に祟りなし、の女なのだ。
「ちがうってーの。自分が社長とか取締役とかじゃなく、秘書っていう肩書なのが申し訳ないとか意味不明なこと言ってんの」
「なるほど……って、いまさらソコ?」
凶暴極まりない彼女を手懐けることができただけでも、高らかに勝利宣言をしてもいいくらいなのに。
「まあ、そうなるのにも原因があるっちゃーあるんだけど……」
「また余計なことでも言ったの?」
ツンデレ体質で、しかもツンが九割の柚子は、時々言葉が過ぎる。
慣れていても、弱っている時などはグサリときてしまう。
「また、とは何よ! ちゃんと気をつけている。わたしなりに、だけど。原因は、この前バーで自称社長の元カレとバッタリ行き合ったせいよ。アイツ、嫌味ったらしく高級腕時計とか見せびらかしてきてさ。ほんと、潰してやればよかった」
ぐっと拳を握りしめる柚子に、「ナニを?」とはとても訊けない。
「隼人さんって、あんまり自分がイケメンだって自覚がないんでしょ? ちょっと弱気になっただけだよ」