DOLCE VITA  ~ コワモテな彼との甘い日々

「ちょっと手伝いしてくれるだけでいいから! アッシャーは、隼人の上司、つまり次期社長よ! 見た目は怖いけど、とっても優しい人なんだって。ぜひお近づきになって、玉の輿に乗りな!」

「そうだねぇ」


見た目は怖いけれど、とても優しい人と聞いて、なぜかお隣さんの姿が脳裏に浮かんだ。

初めて会ったあの日以来、彼の姿を見かけていない。
誰かが部屋に出入りしている気配もない。

このままでは、あの部屋は「ダミー会社用」では、なんて妄想をたくましくしてしまいそうだ。


(べつに、会いたいわけじゃなくて……興味があるだけよ)

「桃果、枯れるにはまだ早いんだからね! でも、ぐずぐずしていられるほど時間に余裕はない。アグレッシブにいかないと!」

「はいはい……」


ちょうど話も区切りがつき、時間ギレとなったので席を立つ。
ワリカンにするという彼女を押し切って、全額支払った。

結婚祝いと言うには、ショボいけれど。

柚子の「もう一軒行く?」の誘いに迷いながらも、彼女とこうして飲み歩ける機会がなくなってしまうかも、という感傷が、駅とは反対方向っとなるバーやスナックの並ぶ通りへ足を向けさせた。

おしゃれな店でもなく、かといって常連で埋まっているような店でもなく。
大きくもなく小さくもなく。

どの店にも当てはまりそうもない条件で選り好みしながらブラブラと通りを歩く。

飲みたいのではなく、彼女と過ごしたいだけだから、それも十分楽しいひと時だ。


「ねえ、あそこ。スポーツバーなんか、どう?」

「柚子が期待しているような、格闘技はやってないと思うけど?」


笑いながら柚子が指さす先に目を向けようとして、凍り付いた。

今日は週の中日、水曜日ということもあり、人出はさほど多くなく、行き交う相手の顔もよく見える。

こちらへ向かって来るカップルは、半年前まで同じ会社で働いていて、けれど二度とかかわりたくない相手だった。


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