DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
「桃果?」
固まったわたしの視線の先を追った柚子が、ぎゅっと腕を掴む。
気づかれる前に、離れようとしたのだろう。
しかし、むこうもわたしたちに気がついた。
普通の感覚を持つ人ならば、素知らぬふりをして通り過ぎる。
それくらい、気まずい関係だ。
けれど、「彼女」にそんな気遣いや常識を求めるだけ無駄だった。
「甘利さん、安酸さんも、お久しぶりです。こんなところで会うなんて奇遇ですね?」
「石田さん……」
「お元気そうですね?」
にこやかに挨拶する彼女の横にいるのは、元同僚で、わたしの元カレ――優也だ。
二人ともスーツ姿。
帰宅途中に食事でもするつもりだったのかもしれない。
じっくり観察するつもりなどなかったけれど、わたしが退職した当時、妊娠していたはずの石田さんの体型が以前と少しも変わらないことに、違和感を覚えた。
しかし、そのことを指摘しようと口を開きかけ、彼女が続けた言葉に唖然とした。
「甘利さん、仕事一筋って感じだったのに、急に退職しちゃうなんて驚きました。しかも、会社の人たち、誰も甘利さんがいまどうしているのか知らないし。ヘッドハンティングされたんじゃないかって噂してたんですよ~」