DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
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「安酸さんとは連絡取り合ってたんですね。ご結婚されるそうですけれど。もしかして甘利さんも、実は結婚退職だったとか……」
「そうじゃ、ないけど……」
適当にあしらうこともできず、口ごもる。
そんなはずがないとわかっているだろうに、優也は苦い表情をしただけで、何も言わない。
「えー? 甘利さんなら、家事も得意だし、きっといい奥さんになれるのに。勿体ないです。でも、おひとりなら出歩くのも自由ですよね? 今度、飲みに行きましょうよ。連絡先、変わってませんよね?」
二股をかけられて、いきなり結婚報告をされ、それだけでもボロボロだったわたしにとどめを刺した彼が口にしたのと同じ。
聞き流せなかった言葉が、癒えたはずの心の傷を抉る。
『別に、家事なんかしてくれなくてもよかったんだよ。俺は、母親や家政婦がほしかったわけじゃない。もう、女として見れない』
わたしだって、仕事で疲れて帰って来てまで、料理や掃除、洗濯なんかしたくなかった。
けれど、誰かがやらなくては、部屋は散らかったままだ。
洗濯物も、自分の分を洗うなら、彼の分も一緒に洗った方が効率がいいし、水道代の節約にもなる。
料理だって、彼のために作っていたのではなく、自分の分を作るついでだった。
それでも、「美味しい」と言われれば嬉しいし、どうせなら嫌いなものより好きなものがいいだろうと思うから、なるべく彼が好む料理を作っていた。
でも、そんな言葉をいまさらぶつけたところで虚しくなるだけ。
そう思ったから、引っ越す時に、愚痴も痛みも、全部あの部屋に置いて来たのだ。
(もう、思い出さないって決めたでしょ? かかわるだけ、時間の無駄なのよ)
「あの、わたしたち急ぐから……」