DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
いつもなら、たぶん黙ってありがたくいただいていたと思う。
けれど、酔っていて、しかも元カレとの再会で心がささくれ立っていたわたしは、呑み込むべき言葉を吐き出してしまった。
「わたし、あまり洋菓子が好きではないんです」
「えっ」
「どちらかというと和菓子……いえ、駄菓子とか、おまんじゅうとか、干しいもとかそういうもののほうが好きで。あ、でも、芸術品のように美しいケーキを眺めるのは、好きですが」
愕然とする彼を見上げ、この部屋にまったくサイズが合っていないと思った。
1LDKの部屋は単身用にしては広めの造りだが、彼がいるだけで酸素が薄くなったように感じる。
しかし、こんなに近くにいても初対面のときより怖くないのは、裸足に無精髭もそのままというちょっとだらしない姿だからだろうか。
酔った頭は、自分が発した不躾な言葉の行方よりも、初めて目にするものに気を取られた。
(足、大きいなぁ……何センチなんだろう? 履ける靴、あるの?)
「じゃあ、別のものを用意する」
「え?」
くるりと背を向け、いまから買い直しに行こうとする彼を慌てて引き留める。
「で、でも、食べられないわけじゃないのでっ!」
「無理しなくても……」
「美味しいんですよね?」
「もちろんだっ! 俺の中では、この店のエクレアはベストスリーに入る」
力説する彼は、自分で食べたことがあるようだ。
しかも、ベストスリーに入るということは、少なくとも三つ以上のエクレアを食べ比べたことがあるということで……。
「あの、もしかして……甘党ですか?」
「……うん」
心なしか、浅黒い顔が赤らんでいるようだ。
大きな身体を恥ずかしそうに縮こまらせる彼がかわいらしくて、思わず笑ってしまう。
「やっぱり、男で甘いものが好きというのは、おかしいよな?」
「ご、ごめんなさい。笑ったりして。あの、おかしくないですよ。わたし、ケーキ屋に勤めていたんですけれど、常連さんには男性もいましたし」
「ケーキ屋に? なんて羨ましい……」
「でも、お店はもう閉店してしまったんですけど」
「閉店?」
「結構有名なお店だったんですけどね。オーナー夫妻が田舎へ帰ることになって。甘党なら、知りませんか? 『Souvenir』っていうケーキ屋さん」