DOLCE VITA  ~ コワモテな彼との甘い日々
それでも、やっぱり「Souvenir」の味とはちがって、サクサクとは食べ進められなかった。

ひと口かじって一旦箱へ戻し、ミネラルウォーターを口に含んで甘さを洗い流す。

あっという間にエクレアを食べた彼は、あっという間にビールも空け、再び勝手に冷蔵庫から二本目を取り出していた。

プシュゥというリングプルを開ける音にじとっとした視線を送ると、初対面でするなんてあり得ない不躾な質問を投げつけて来る。


「で、失恋か?」

「失恋ではないけど……その、名残のような……」


どういうわけか、彼の質問についつい素直に答えてしまう。


「いわゆる元カレというやつか」

「…………」

「何か言われたのか?」

「彼には……」

「じゃあ、そいつの新しい女にか」

「…………」

「幸せそうな姿を見せつけられて、むかつくことを言われたのに、何も言い返せなかったとか?」


甘いエクレアのせいで、調子が狂っていた。

愚痴ったところで、嘆いたところで、現状が変わるわけではない。
過去に腹を立て、涙を流すなんて、無駄で、非建設的な行為だ。


失恋は、

結婚する前に相手の本性がわかって幸運だった。

仕事は、

世の中には数えきれないほどの会社があるのだから、諦めずに探し続ければ、きっといい出会いがある。

ちゃんとわかっている。

腐らずに、前を向いて進み続けるべきだということは。

でも、


「……わたし、こんな目に遭うような何かをしたのかなぁ」

「それは、話を聞いてみなけりゃ何とも言えないな。取り敢えず、話してみろよ」


至極当然の言葉だけれど、突き放しているようにも聞こえる。


「聞きたいの?」

「アンタが話してくれるなら」


そう言って、

太い指が掻く鼻筋は、意外と高くまっすぐで。
目尻にできる笑い皺は、優しくて。
細められた目は、温かくて。
大きな口から覗く歯は真っ白で。

ちょっとぼやけてはいたけれど、案外コワモテも嫌いじゃないと発見する。


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