DOLCE VITA  ~ コワモテな彼との甘い日々


「いい年して……たかが失恋で、こんなに落ち込むなんて、馬鹿みたい」


洗いざらい吐き出してしまった照れ隠しにそう言えば、辛島さんは優しく微笑んだ。


「失恋できるのは、ちゃんと相手のことを好きだった証拠だろ。アンタは、よく頑張った」


大きな手で乱暴に頭を撫でられると、我慢していた嗚咽が漏れた。

それでも、素直に泣きじゃくることはできなくて、冗談めかした自虐を口にしてしまう。


「わたしに魅力があれば、こんなことにはならなかったのかもしれないけど。スタイルも、顔も、仕事も、取り柄もない、平凡な女だから」


いくらロクデモナイ男だと元カレを罵ろうと、彼に言われた『女として見れない』という言葉は、深く鋭く胸に突き刺さって抜けない。

消せない痛みなら、麻痺させるしかなかった。

それなのに、辛島さんは無責任なリップサービスでわたしを慰めようとする。


「アンタは、魅力的だよ」

「お世辞は結構ですっ! 抱きたくなるような、グラマーな身体じゃないって、自分でもわかってます」

「あのな、いい身体だから抱きたくなるんじゃねぇよ」

「じゃあ、どういう……」


その場しのぎの慰めなんて求めていないと言おうとした唇に、太くて固い指が押し当てられる。


「本能だろ」

「誰でもいいってこと?」

「そうじゃねぇよ。コイツを自分のものにしたいって、本能だよ」


テーブルの角を挟んで座っている距離は、一ミリも変わっていない。
それなのに、じっと見つめられているだけで、彼の「熱」が伝わってくる。


「俺はいま、アンタを抱きたいと思ってる」

「…………」


明け透けな言葉に、何と返していいのかわからない。
どこからどこまでが社交辞令で、どこからどこまでが本音かわからない。
戸惑い、視線をさまよわせるわたしに、辛島さんは苦笑した。


「アンタ、ガードが固そうに見えて抜けてんな。下心もなく部屋に上がり込むわけねぇだろうが。あざとい真似はできそうもねぇし、天然なんだろうけどよ」 


カッと頬が熱くなった。
二十八にもなって、きわどい言葉一つでうろたえるなんて、情けない。
深い意味のない、軽いじゃれ合いのような会話も上手く交わせないなんて、経験のなさを露呈しているようなものだ。


「アンタが考えそうなこと、想像つくけどな。それは、ちがう」

「え?」


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