DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
いつの間にか、二人の間にあった距離はなくなっていた。
それこそ、蛇に睨まれた蛙のように身じろぎもできないまま。
目を閉じることすらできないまま、唇が重なった。
それは、思ったよりも柔らかく、優しく。
思っていたとおりに熱く、濃厚だった。
無意識に、このキスを想像していたのだと思い知らされた。
流されやすい性格だけれど、付き合ってもいない男性と寝たことは一度もない。
よく知らない男性と、キスをしたことさえない。
それなのに、身体を這う手に、口内を弄る舌に、甘く淫らな誘惑に逆らえない。
軽々と抱き上げられ、誰とも分かち合ったことのないベッドに下ろされる。
彼が乗り上げると、その重さに抗議するようにベッドがギシリと軋んだ。
無骨そうに見えて器用な手がわたしの服を剥ぎ取り、無口そうに見えて意外とおしゃべりな口が敏感な場所を探り当て、甘い痛みを落としていく。
軽率な真似をしている自覚はあったけれど、やめたいとは思わなかった。
あまりにも体格がちがうから、多少の痛みや苦しさはしかたがないとさえ、覚悟していた。
けれど、彼はとても優しかった。
わたしには彼を夢中にさせるほどの魅力があるのだと、勘違いしてしいまいそうになるくらい。
たっぷり時間をかけて、自分よりもわたしを優先し、一瞬たりとも不快な気分にさせなかった。
コワモテで、硬派そうな見かけによらず女心に聡い彼は、わたしの耳に、どんな音楽よりも心地よく響く声で囁く。
「アンタさ、たまには人を利用しろよ? いままで真面目に生きてきたんだ。一度や二度、ズルをしたって、神様も見逃してくれる」
「わたしの名前は、アンタじゃないわ」
「じゃあ、『もか』だな。『桃果』や『もも』じゃ、芸がねぇだろ。それに……」
彼は、何もかも見通してしまいそうな鋭く、深いまなざしでわたしを見つめる。
「ほかの男と同じなんて、ムカつく」
どこをどうやったって、ほかの男と同じになれるはずもないのに、そんなことを言う彼の気持ちがくすぐったい。
「もか」
柔らかな声に乗せられた愛称は、温かく、胸を満たす響きを伴っている。
出会ったばかりの、素性すら定かではない男性に、何もかもさらけだし、抱き合うなんて「夢」よりも夢っぽい。
でも、
甘いものはそれほど好きではないから、一晩で消えるくらいの甘さがちょうどいい。
もう少し、味わいたいと思うくらいが、ちょうどいい。