DOLCE VITA  ~ コワモテな彼との甘い日々


********


暑さはさほどでもないが、強い日差しに目を細め、日陰を縫うようにして駅へ辿り着く。
午後二時という中途半端な時間だから、閑散とまではいかないが、人出は少ない。

地図アプリを頼りに歩くこと十五分。
目的の場所に辿り着いたわたしは、予想外の光景を目にして戸惑った。


(な、なんだか……とってもメルヘンでファンシーな雰囲気なんですけど?)


指定された場所は、さまざまな企業の事務所などが入るビルの一階。
雑貨などを扱っていると思われる店だった。

大きなウィンドウには、アンティークのランプや人形が、たっぷりのレースやらフリルやらと共に飾られている。

白い木製のドアに打ち付けられた金のプレートにある名前は『Salon de U.K』。
ここで、まちがいない。

いきなり足を踏み入れるのも躊躇われ、窓から中を覗いていたら、ドアが開いた。


「いらっしゃーい! 待ってたわぁ」

「え」


現れたのは、フリル満載のガーリーなドレスを着た女性。
とてもかわいらしい顔立ちではあるが、おそらくわたしより年上と思われる。


「どうぞお入りになって!」


腕を掴まれ、ぐいっと引っ張られ、逆らう間もなく店内へ引きずり込まれ……一歩入った途端、きらびやかな店内の様子に圧倒された。

真鍮の飾りが施された鏡。
天上からぶら下がる、クリスタル製の小さなシャンデリア。
豪華なドレスを着て、冷たい表情でこちらを見上げる人形たち。
カラフルな石が散りばめられた小物入れ。
繊細なレースで縁取られた真っ白なハンカチ。

壁際に置かれたトルソが着ているのは、総レースのウエディングドレスだ。

まるで、お姫さまの宝箱をひっくり返したようだった。


< 40 / 104 >

この作品をシェア

pagetop