DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
「ちょうどお茶にしようと思っていたところなの。何時に来るかわからないって言うから、もうずーっとソワソワしちゃって……」
軽やかな彼女のおしゃべりに相槌を打ちながら、店の奥へと進み、花柄のソファーに腰を下ろす。
「お腹空いているといいんだけれど」
花の香りがする紅茶と豪華な三段重ねのティースタンドを目の前にして、ようやく我に返った。
ティースタンドには、サンドイッチ、スコーン、ひと口大のケーキが載っている。
「あ、はい、空いています」
「よかった! 遠慮せずにたくさん食べてちょうだいね?」
「ありがとうございます……」
「そう言えば、まだ自己紹介もしていなかったわね。辛島 梅乃です」
「甘利 桃果です。あの、辛島さんの、お姉さん……ですか?」
同じ名字だが、彼は独身だと言っていた。
その言葉を信じれば、家族か親戚ということになる。
「ええ。義理の姉です。トラちゃんのお兄さんと結婚しているの」
危うく笑いそうになったが、咳払いでごまかした。
(トラちゃん……猫みたい)
「そうなんですね。お兄さんがいらっしゃるとは、知りませんでした」
「え。じゃあ、ここに来たのは……」
「ここに来るようにと書かれたメモを見て」
梅乃さんは、目を丸くし、呆れたように首を振る。
「もー、トラちゃんってば、説明を省きすぎ。いまどき寡黙な男は流行らないって言ってるのに」
「そうかもしれませんが、わたしと辛島さんは昨日初めてお話をしたような仲なので……」
「えっ! 出会ってすぐに押し倒したってことっ!?」
さすがに、今度ばかりは咳払いでごまかせなかった。
「ぐふっ……いえ、それは、そういうわけでは……」
「言葉より先に手が出るなんて、もぅ、ほんと野獣なんだからっ」
(野獣……見た目はそのとおりかも……)
「ねぇ、大丈夫だった? トラちゃん、ずいぶん長い間、女性とお付き合いしていなかったから、ガツガツしていたんじゃない? どこか痛めたりしていない?」
そんなことを訊かれても、恥ずかしくて本当のことなど言えない。
しかし、真剣な表情の梅乃さんを前にして、適当にはぐらかすこともできなかった。
「だ、大丈夫です。ガツガツ……は、していませんでした」
(むしろ、ガツガツしていたのは、わたしのほう……)
丁寧すぎる彼の愛撫や緩やかな行為に焦れて、いろいろねだったような……気がする。